理想のペットフードをカタチに!OEMペットフード開発「3つのつまずきポイント」と克服術

「愛犬・愛猫に最高のごはんを!」その想いをOEMで実現しませんか?でも製品開発には思わぬ壁も。レシピの科学、ロットの現実、そして譲れない安全性。100社以上の開発を支援した専門家が、初心者が陥りがちな3つの重要課題と、その具体的な解決策を徹底ガイドします!

みなさん、こんにちは。ペットフード事業コンサルタントの荒木です。

「本当に安心で、体に良いペットフードを作りたい!」そんな熱い想いを形にする手段としてOEM(Original Equipment Manufacturing)という方法があります。OEMは特に初期投資を抑えたいペットフード新規参入事業者にとって、非常に有効な選択肢の一つ。自社で大規模な工場を持たなくても、専門の製造メーカーの力を借りて、オリジナルのペットフードブランドを立ち上げることができるます。

しかし、その魅力の裏には、思わぬところで時間とコスト、そして何よりも情熱を消耗してしまう可能性のある「つまずきポイント」が潜んでいます。

今日は、私がこれまで20年以上にわたり、100社を超える企業のOEMペットフード開発を支援させていただいた経験から、特にこの「製品開発」のフェーズで多くの方が直面する、「レシピ」「製造ロット」「品質管理と安全性」という3つの重要な課題と、それをどう乗り越えていけばよいのか、具体的なお話をさせていただきます。この記事が、みなさまのペットフード開発プロジェクトを、成功へと導くための一助となれば幸いです。

1.「愛情たっぷりレシピ」が招く意外な落とし穴 ― 科学的根拠の重要性

まず最初にお話ししたいのが、製品のコンセプトを左右する最も重要な要素、「レシピ開発」についてです。 「うちの子が毎日喜んで食べてくれる、愛情たっぷりのごはんを再現したい!」 「人間も食べられるくらい、安心安全なオーガニック素材だけで作りたい!」 こうした、飼い主としての深い愛情から生まれる素晴らしいアイデアを、たくさんお聞きします。そのお気持ち、私も一飼い主として、そして開発に携わる者として、痛いほどよく分かります。

しかし、この「愛情」や「理想」だけを優先してしまうと、実はペットの健康を長期的に支えるという観点や、工業的な製造という現実の壁にぶつかってしまうことがあるんですね。これが、最初の大きな「つまずきポイント」なんです。

なぜ、「愛情レシピ」だけでは難しいの?

ご家庭で作る手作りごはんは、その日使う食材の栄養価が多少変動しても、他の食事やサプリメントで調整したり、あるいは数日単位で栄養バランスを考えたりすることができますよね。また、調理方法も比較的自由です。

ところが、これを工場で毎日同じ品質のペットフードとして大量生産するとなると、話は変わってきます。

  • 栄養バランスの厳密なコントロール: ペットフード、特に「総合栄養食」として販売するものは、「そのフードと水だけで、特定のライフステージの犬や猫が健康を維持できる」ように、必要な栄養素が過不足なく配合されている必要があります。これには、AAFCO(米国飼料検査官協会)が定めた栄養基準を満たす、非常に精緻な栄養設計が求められます。愛情だけでこの基準をクリアするレシピを作るのは至難の業です。
  • 製造適性の問題: 「この食材を入れたい!」という想いがあっても、その食材がドライフードの成形(あのカリカリの粒を作ること)に適しているか、加熱処理によって栄養価がどう変化するか、保存性はどうか、といった「製造上の都合」も考慮しなければなりません。「できるだけ自然な形で生のお肉や野菜をたくさん入れたい」というご要望をいただくことがありますが、原材料全体の水分量が多すぎるとドライフードの成形が難しく、製造できないのが現実です。
  • 原材料の安定供給とコスト: こだわりの特定の希少な食材を使いたい、という場合も注意が必要です。その食材が、年間を通して安定的に、かつ事業として見合うコストで調達できるのか、という現実的な問題も出てきます。「最初は手に入ったけれど、途中から供給が途絶えてしまった…」では、製品の継続的な販売が難しくなってしまいますよね。

「レシピ開発」でつまずかないための鉄則

では、どうすればこの「レシピの落とし穴」を避け、理想と現実のバランスを取りながら、本当にペットのためになるフードを開発できるのでしょうか。重要なのは以下の4点です。

  1. 「専門家」の知恵を借りること: 自社にペットの栄養学やペットフード製造の専門家がいない場合は、外部の専門家に相談しましょう。また、OEMメーカーには必ず栄養設計の担当者がいますので、二人三脚でレシピを練り上げていく姿勢が大切です。「餅は餅屋」という言葉通り、専門的な知識と経験を頼る、尊重することが大事です。
  2. 「栄養基準」を読み解くこと: 先ほども触れたAAFCOの栄養基準は、いわばペットフード開発における「地図」のようなものです。この地図を正しく読み解き、定められた基準値をクリアすることが、安全で健康的なフード作りの第一歩です。「総合栄養食」と表示するためには、この基準への適合が求められます。基準は見直されることもありますので、最新の情報には常に目を配っておきましょう。
  3. 原材料の「プロフィール」を徹底的に調べること: 同じ「鶏肉」という表示でも、生の鶏肉、乾燥させた鶏肉粉末(チキンミールなど)、あるいは鶏肉から水分だけを除いたものなど、その状態によって栄養価や扱い方が全く異なります。使用する各原材料の正確な栄養成分データ(サプライヤーから入手したり、原材料の栄養分析検査を実施します)を基に、全体の栄養バランスを精密に計算していく必要があります。「イメージ」だけでなく「数値」で原材料を評価する視点が重要です。
  4. 必ず「試作品」で検証を行うこと: 机上の計算で完璧なレシピができたと思っても、実際に製造してみると、嗜好性(ペットの食いつき)が思ったより良くなかったり、便の状態に影響が出たり、あるいは想定していた栄養価と分析結果にズレが生じたりすることがあります。試作品を実際に食べてもらう給与試験や、第三者機関による成分分析を行い、科学的なデータに基づいてレシピを最終決定していくプロセスが不可欠です。

愛情は最高のスパイスですが、それだけではペットの健康は守れません。科学的な裏付けと、製造の現実を踏まえたレシピ開発こそが、成功への第一歩です。

2.「作りたい数」と「作れる数」の大きな隔たり ― 製造ロットとコストの現実

さて、素晴らしいレシピの構想が固まってきたところで、次なる問題は「じゃあ、実際にどれくらいの量を作るの?」という問題です。ここで多くの方が直面するのが、「最小製造ロット」という、OEMペットフードの現実的な壁なんですね。

「最初はテスト的に、少量から作りたい」 というのは、事業の立ち上げにあたっては非常に自然な発想です。しかし、ペットフード、特にドライフードを製造する場合、この「少量」というのはなかなか難しいのが実情です。

なぜ「小ロット」は難しいの?コストとの関係は?

ドライフードの製造には、エクストルーダーという機械が使われることが多いのですが、この機械は一度稼働させると短時間で多くの量が製造できてしまいます。また、原料を準備し、機械の設定をその製品用に調整し、製造後には清掃するという一連の流れにかかる手間や時間は、製造する量が少なくても、多くても、実はそれほど大きくは変わらないんですね。

そのため、どうしても一度に製造する量が少ないと、製品1袋あたりの固定費(機械の稼働準備費や人件費など)の割合が大きくなってしまい、結果として製造原価が非常に高くなってしまう傾向にあります。

  • ドライフードの一般的なロット: メーカーや工場の設備、規模にもよりますが、ドライフードの場合、最小でも数百kg~数トンから、というのが一般的です。仮に1トンのドライフードを1kgで袋詰めすると1000袋。これを全て売り切る販売力と、保管しておくスペース、そして初期の製造費用が必要になります。
  • ウェットフードやおやつの場合: 一方で、ウェットフード(缶詰やレトルトパウチ)や、クッキータイプのおやつなどは、ドライフードに比べると比較的小さなロット(例えば数百個単位や数十kg単位)から対応してくれるOEMメーカーも見つかりやすい傾向にあります。製品タイプによって「作れる数」の感覚が大きく異なることを知っておきましょう。
  • 見落としがちなパッケージのロット: フードそのもののロットだけでなく、それを詰める袋や貼るラベルといった「包材」にも、実は最小発注ロットが存在します。特にオリジナルのデザインで印刷袋を作る場合、数千枚単位からの発注になることもあり、初期費用が意外とかさむポイントです。

私がご相談を受けたケースでは、非常にユニークなコンセプトのドライフードを小規模で始めたいという方がいらっしゃいました。いくつかのメーカーに打診したものの、やはり最小ロットが大きく、初期投資と在庫リスクを考慮した結果、まずはコンセプトを少し変更し、比較的ロットの小さいウェットタイプの製品からスタートし、ブランドの認知度を高めてからドライフードに挑戦する、という戦略に切り替えた方もいらっしゃいます。

「製造ロットの壁」を乗り越えるためのヒント

  1. 複数のOEMメーカーに正直に相談し、比較検討する: 最初から1社に決め打ちせず、複数のメーカーに、作りたい製品のイメージ、希望する製造量、そして予算感を正直に伝え、それぞれの最小ロット、見積もりを比較検討しましょう。メーカーによっては、新規立ち上げで、かつ製品コンセプトや依頼者の人柄に共感してくれた場合、通常より少し柔軟に対応してくれる可能性もゼロではありません。
  2. 現実的な「販売計画」と「資金計画」を立てる: 「これだけ作れば、これくらいの期間で売り切れるだろう」という販売予測と、それに見合うだけの初期製造費用、そして万が一売れ残った場合の在庫管理コストや資金繰りまで、現実的な計画を立てることが極めて重要です。希望的観測だけでなく、最悪のケースも想定しておきましょう。
  3. 最初は「製品ラインナップ」を欲張らない: あれもこれもと多くの種類の製品を一度に作ろうとすると、それだけ多くの最小ロットを抱えることになり、リスクが増大します。まずは主力となる1~2製品に絞り込み、市場の反応を見ながら徐々にアイテムを増やしていくのが賢明な戦略です。
  4. 「フード以外の選択肢」も視野に入れる: もしドライフードのロットがどうしても厳しい場合は、前述のようにウェットフードやおやつからスタートする、あるいはケア用品といった、より小ロットで始めやすい関連商品からブランドを立ち上げ、顧客基盤を築いてから本命のフード開発に繋げる、というステップを踏むのも一つの有効な考え方です。

製造ロットとコストの問題は、特に資金力に限りがある小規模事業者、スタートアップにとっては、事業の継続性を左右する死活問題になりかねません。理想と現実のバランスをしっかりと見極め、賢明な判断をすることが求められます。

3.見過ごすと命取り!「品質管理と安全性確保」という絶対的使命

そして、製品開発における3つ目の、そして最も重要な「つまずきポイント」が、「品質管理と安全性の確保」です。 どんなに素晴らしいコンセプトのフードでも、どんなに美味しそうなフードでも、その前提として「安全性」が担保されていなければなりません。そして、OEMで製造を委託する場合であっても、最終的な製品の品質と安全性に対する責任は、すべてブランドオーナーである「あなたの会社」が負うことになるのです。このことは、まず肝に銘じておかなければなりません。

なぜ、OEMでも「自社での品質管理意識」が不可欠なのか?

過去、国内外でペットフードの安全性に関わる重大事故がたびたび発生しています。原材料への意図しない有害物質の混入や製造工程での細菌汚染など、その原因は様々ですが、これらの事故の中には多くのペットの健康を害し、時には命を奪う結果にまで至るケースがありました。そして、その事故に関連した企業の信頼は大きく失墜し、事業の継続が困難になるケースもありました。

OEMメーカーはもちろん専門家であり、日々の製造において品質管理を行っています。しかし、みなさんのブランドの製品が、定めた基準通りに、常に安全に製造されているかを確認し、保証するのは、最終的にはみなさま自身の役割なのです。OEMメーカー任せにせず、「自分たちの製品の品質は自分たちで守る」という強い意識を持つことが、すべての基本となります。

  • 原材料の品質管理の仕組みや体制の確認: 安全なペットフード作りは、安全な原材料を選ぶところから始まります。原材料のリスクがどのように管理されているかを確認しましょう。
  • 製造工程における潜在的リスクの把握: ドライフードであれば高温高圧での加熱殺菌、ウェットフードであればレトルト殺菌といった工程で細菌は死滅します。しかし、例えば異物混入(金属片など)のリスク、あるいはアレルギーを持つペットにとって深刻な問題となるアレルゲンのコンタミネーション(意図しない混入)のリスクなど、製造工程には様々な潜在的リスクが潜んでいます。OEMメーカーと協力してリスクを特定し、対策を講じる必要があります。
  • 完成した製品の「保証」: 完成した製品はペットフード安全法の成分規格を満たしている必要があります。また、製品の賞味期限は科学的な試験に基づいて、品質が保証できる期間を客観的に設定しなければなりません。

「品質と安全性」で失敗しないための具体的アクション

  1. 「信頼できるOEMメーカー」をパートナーとして選ぶ: メーカー選定の際には、価格やロットだけでなく、その工場がどのような品質管理システムを導入・運用しているか、従業員の教育は徹底されているか、といった点を必ず確認しましょう。できるだけ実際に工場を訪問し、ご自身の目で製造現場の清潔さや整理整頓の状況などを確認することが理想的です。
  2. 「品質に関する取り決め」を明確に文書化する: どのような品質基準で製品を製造してもらうのか、原材料の基準、製造工程でのチェック項目、最終製品の検査基準、万が一品質に問題が発生した場合の対応(原因究明、製品回収、費用負担など)について、OEMメーカーとの間で事前に詳細な取り決めを行い、契約書などの形で必ず文書として残しておくことが、後々のトラブルを防ぐためには非常に重要です。
  3. 自社でも「抜き打ち検査」や「市場製品の確認」を行う: メーカーを信頼することは大切ですが、それに加えて、自社でも製造ロットごとにサンプルを保管しておき、必要に応じて分析などを行う体制を整えておくと、より安心です。
  4. 「酸化」や「カビ」といった見えない敵への対策を怠らない: 特にドライフードは、油脂の酸化が進むと風味の劣化だけでなく、ペットの健康に有害な物質が生成される可能性があります。適切な酸化防止剤の使用はもちろん、酸素を通しにくい包装材の選定、脱酸素剤の封入、窒素充填といった包装技術の活用も、品質保持には有効です。また、水分活性のコントロール(カビの発生を抑制)についてもメーカーとすり合わせましょう。
  5. 万が一の「リコール」に備えた体制を構築しておく: どんなに万全を期していても、製品回収(リコール)が必要になる事態が発生する可能性はゼロではありません。その際に、迅速かつ適切に対応できるよう、社内での連絡体制、顧客への告知方法、製品の回収手順、原因究明と再発防止策の策定プロセスなどをまとめた「リコール対応マニュアル」を事前に準備しておきましょう。

品質と安全性の確保は、時に地味で、コストも手間もかかる取り組みかもしれません。しかし、これこそがお客さまからの信頼を長期的に獲得し、愛されるブランドを築き上げていくための、絶対に譲れない「生命線」です。

まとめ:製品開発の「壁」を越え、理想のフードを製品化しましょう!

さて、ここまでOEMでペットフードを開発する際に、特に「製品そのものを作り上げる」段階で直面しやすい3つの大きな課題、「レシピ」「製造ロット」「品質管理と安全性」について、具体的なつまずきポイントと、それを乗り越えるためのヒントをお話ししてきました。

  • 愛情だけでは届かない、科学的根拠に基づいた「レシピ設計」の重要性。
  • 理想と現実のバランスを見極める、「製造ロットとコスト」の賢明な判断。
  • そして、ブランドの生命線とも言える、「品質と安全性」への徹底的なこだわり。

これらの課題一つ一つは決して簡単にクリアできるものではありません。しかし、それぞれのポイントを事前にしっかりと理解し、適切な準備と対策を講じることで、必ず乗り越えることができる壁でもあります。

ペットフードのOEMメーカーは、みなさんの「理想のフードを作りたい」という想いを形にするための、大切なパートナーです。しかし、そのパートナーに任せきりにするのではなく、委託者自身が主体となって、専門知識を学び、情報を収集し、厳しい目で品質をチェックし、そして時には難しい判断を下していく。その主体的な姿勢こそが、製品開発を成功に導き、ひいては多くの犬たち、猫たちとそのご家族に笑顔を届ける、素晴らしいペットフードを生み出す原動力となるのです。

この記事が、みなさまの製品開発における羅針盤となり、自信を持って次の一歩を踏み出すためのお役に立てることを願っています。

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